サン・ミゲルにおいてきた僕の心のカケラ

―サン・ミゲル・デ・アジェンデー

メキシコ

San Miguel de Allende, Mexico

Jun Diary Top2

ピンク色のパロキア尖塔は青い空に深く突き刺さり、やがて夕暮れには散っていた鳥たちの定宿となる。 

喧騒のメキシコシティからサボテンの荒野を北へ向かうと谷の下に玩具のような小さな街が現れる。 

僕は学生時代の一時期をこの街で過ごした。

その頃はメキシコ人にもそれほど知られていない小さな街だったが、今では世界中から観光客を集める街になっているという。

 サン・ミゲルはいわゆるリゾート地ではない。

過ごし方は旅人の自由だが、教会の鐘の音は早朝から夜半までこの街の時を教えてくれる。

僕は以前スペインのグラナダに住んでいたことがあるが、中世のスペイン的な雰囲気は、サン・ミゲルの方が色濃く残っているような気がする。バロック時代のスペインがそのままそこにあるのだ。

さまざまな色に塗られた壁が連なるコロニアル建築の古めかしい建物の扉を開けると、そこには別世界が広がっている。例えば泉にハチドリ舞い鮮やかな色の花が咲き乱れるパティオ(中庭)がある。一瞬にしてタイムスリップしたような不思議な感覚に取りつかれるのだ。

さらにこの街にはアステカ、スペイン独立戦争、メキシコ革命といった歴史の幻影が映し込まれている。サム・ペキンパー映画の悪漢か、怪傑ソロがどこからともなく現れてくるような気がする。「レジェンド・オブ・メキシコ」というアントニオ・バンデラスとジョニー・デップが主演した映画のロケ地になったことも深く頷ける。

そんな雰囲気もあってか、この街には画家、彫刻家、音楽家、作家など様々なアーティストが世界中から集まり居住している。有名俳優の別荘も多い。きっと芸術への創造意欲をかきたてる舞台装置のような街なのだ。 

僕はたまたま当時この街に住んでいたクラシックギター製作家のルシオ・ニューネスと知り合った。そして楽器製作の魅力にとりつかれ、30年近く経った今も彼と同じこの仕事を続けている。

彼の工房にはさまざまな才能を持った人が集まった。闘牛士でありながらフラメンコギタリストのセルヒオ、南仏でジプシーと暮らしていたドイツ人ギタリストのロボと仲間のハビエル。詩人でアレハンドロ・ホドロフスキー映画にも出演したフェルナンデスなどなど個性的で一癖も二癖もある輩ばかりだ。 

この街の住人たちはむき出しの人格で強烈かつ懸命に生きていて心の壁などほとんどないので、すぐに友達以上の関係になる。たぶんその関係はこの先も続いていくことだろう。ルシオ・ニューネスが製作したギターは、今もこの工房のパティオで乾いた音だけどメランコリックにタレガの曲を響かせている。

San Migeul 4

Lucio

さて、この街サン・ミゲルはただ通り過ぎるのではなく、しばらく(できれば長く)滞在することをおすすめする。それはこの街があなたの人生を変えてしまう不思議な魔法を持っているからだ。 

空腹を覚えたらパロキア近くのイグナシオ・ラミレス市場で見たことのない果物、野菜、食材を眺めながら地元の人が食べているものを味わうといい。街の通りには、こじんまりしているが、なかなか美味しいケーキ、パン、アイスクリーム屋がある。コロニアル様式のパティオにある喫茶店でカフェオーレを飲みながらいろいろな人たちを眺めながら時を過ごすのも楽しい。そのうちきっと人懐こいこの街の住人が話しかけてくることだろう。

 夜はさまざまなスタイルのバーでラテンの数多い種類の音楽を聴くことができる。昼間にルシオ・ニューネスの工房にたむろしていたギタリストたちが熱演している。ピーニャ・コラーダの甘さに足を取られながら、気がつけばすっかり夜も更けていく。

この街はカトリック色が強いせいか幸い治安が良い。屋台で買ったハンバガーを半分野良犬にくれてやり、闇に溶けそうで溶けないパロキアの尖塔を見上げる。

San Miguel

今はインターネットでサン・ミゲルの様子も簡単にわかる時代になった。僕の信州松本にある工房は、サン・ミゲル地元FM放送局のネットラジオを流し続けている。

彼の地に置いてきてしまった心のカケラが、僕を呼ぶのを感じながら。

Jun NACANO (Juanito)

Junの画像 Jun Nakano Guitar Label

ギター製作家。1966年長野県松本市で生まれる。学生時代の留学先であったメキシコのサン・ミゲル・デ・アジェンデで出逢ったメキシコ人ギター製作家ルシオ・ヌーニェス・ナバ氏に触発され自身もギター製作家の道を志す。帰国後、日本国内にあるギター工房で修行した後、スペインのグラナダにて世界的巨匠と名高いギター製作家アントニオ・マリーン・モンテロ氏に弟子入りし伝統的なスペイン工法を学ぶ。非効率な「陶冶の行程」を誇りとし「音響」と「装飾」にこだわった純粋手工のギターを製作し続けている。クラッシックギタリストの村治奏一(姉は村治香織)はJun NACANOのギターを愛用する一人。

■ルシオ・ヌーニェス・ナバは現在米国テキサス州サンアントニオの工房で楽器を製作し続けている。

彼が製作した楽器の音を聴いてみたい方はこちらからどうぞ!http://www.lucionunezguitars.com/listen.html 

■サン・ミゲルへのご旅行はこちらをご参考に!http://www.earth-d.co.jp/tour/modeltour06.html

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